福岡地方裁判所大牟田支部 昭和39年(ワ)2号 判決 1966年9月21日
主文
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「一、被告は原告に対し別紙目録記載の宅地につき福岡法務局大牟田出張所昭和三三年五月一二日受付第二七九一号抵当権設定登記及び右同出張所右同日受付第二七九二号所有権移転請求権保全仮登記の各抹消登記手続をせよ。二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として
一、別紙目録記載の宅地(以下、「本件宅地」という)はもと訴外森慶時の所有であつた。
二、森慶時は、昭和三六年二月二七日訴外花田稔雄に対し本件宅地を売り渡し、同人は、同年四月一一日原告に対し本件宅地を売り渡し、同日、所有権移転登記を受け、原告は、現に本件宅地の所有者である。
三、これより先、森慶時は昭和三三年五月一二日、被告に対する債務金一〇万円(内訳は被告に対する未払飲食代金五万円及び借用金五万円)の担保のため、本件宅地につき請求趣旨記載の抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という)をした。なお、森慶時と被告とは親しい間柄であつたので、利息の約定もなかつたし、弁済期限(昭和三三年一二月三一日)も厳格なものではなかつた。
四、原告は、昭和三八年一二月二三日、森慶時の妻を伴い被告方に赴き、被告に対し前記森慶時の債務金一〇万円及びこれに対する昭和三三年五月九日より当日まで民事法定利率の年五分の割合による利息、損害金二万八一三五円を弁済のため提供したが被告より受領を拒絶されたので、同年一二月二四日、福岡法務局大牟田出張所に右金員を弁済供託した。
五、(一)また、本件宅地には、請求趣旨記載の所有権移転請求権保全仮登記(以下「本件仮登記」という)がある。(二)しかしながら、森慶時は、被告との間に本件宅地につき右仮登記の原因とされる昭和三三年五月九日付停止条件付代物弁済契約を締結したことはなく、右仮登記は森慶時が何等関与することなくしてなされたものであつて無効である。
六、よつて、原告は、被告に対し、本件抵当権設定登記及び本件仮登記の抹消登記手続を求める。
と陳述し、
被告主張の金銭消費貸借及び停止条件付代物弁済契約の成立は否認するが、仮に右停止条件付代物弁済契約が成立したとしても、抵当権設定契約に附加して締結されたものであるから、その実行には、債務者に対する通知又は履行の催告が必要であるところ、被告は何等通知又は履行の催告をしなかつたのであるから、原告の弁済提供は期限後と雖も有効であり、本件土地は被告の所有に帰するにいたらなかつた。
と陳述した。
被告は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、同第二項の事実中本件宅地の売買経過の点は不知、本件宅地が原告の所有であるとの点は争う。
三、同第三項の事実中本件宅地に本件抵当権設定登記があることは認めるが、その余の事実は否認する。
四、同第四項の事実中提供金額の点は争うがその余の事実は認める。
五、同第五項中(一)の事実は認めるが、(二)の事実は争う。
と陳述し、
本件土地は、被告の先代が終戦前に訴外森慶時の先代より賃借し該地上に建物を所有したものであるが、その後、賃貸人、賃借人ともに承継があつて、昭和三一年七月頃、森慶時は被告に対し本件土地の買取方を要請した。被告は、同月五日、売買代金額は後日決定することとして内金五万円を支払い、昭和三三年五月に至り、森慶時との間に右代金額を金一〇万円と決定したうえ、同月末日まで数回に亘つて同人に対し残代金五万円を支払い、本件土地を買取つた。ところで、このような事実関係のもとに、当然、本件土地につき残代金支払と同時に、森慶時より被告に対し所有権移転登記がなされるべきであつたが、被告としては、森慶時が残代金支払までの間に本件土地を他に売却する惧れを抱いていたし、森慶時としては、残代金支払前に所有権移転登記をすることを好まなかつた等若干の事情のもとに、両当事者間において、乙第一、二号証(借用証書、停止条件付代物弁済契約書)記載のとおり、被告は森慶時に対し昭和三三年五月九日金一〇万円を弁済期限同年一二月末日と定めて貸与し、期限に弁済がないときは、森慶時より被告に対し本件宅地を代物弁済として譲渡する旨の金銭消費貸借契約及び停止条件付代物弁済契約を成立せしめ、これを原因として本件宅地につき本件抵当権設定登記及び本件仮登記を了した次第である。
そして、森慶時は右期限に弁済をしなかつたので、本件宅地は、右停止条件付代物弁済契約によつて、原告の所有に帰した。
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は失当である。
と陳述した。
(立証)(省略)
別紙
目録
大牟田市曙町四七番地
一、宅地 八七坪